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(ハ)電話、テレックス、その他即時的通信手段による承諾
承諾の通知が電話、テレックス等によってなされる場合には、到達主義の原則が適用される。例えば、東京に営業所をもつ当事者とロンドンに営業所をもつ当事者の間で電話やテレックスで商談を行う場合、空間的な隔たりに関係なく、当事者間の意思表示の伝達は双方向に即時的に行われるので、時間的には対話者間の意思表示の場合と同様の効果が考えられる。英国の判例(Entore,Ltd v.Miles Far East Corp[1955]2 QB 227)は、電話、テレックス、その他即時的通信手段による申込の承諾については到達主義の原則をとり、その承諾が申込者に到達した時および場所が契約成立の時期および場所であると述べている。
同じコモンローの国であっても、米国では若干事情が異なる。契約法のリスティトメント(Restatement(Second)of the Law of Contracts、§64.Restatement of the Lawof Cotracts§65.)は、電話による承諾の効力発生について、対話者間の原則に従って、到達主義に基づく規定を明示している。若干の判例も、電話、テレックス等による承諾の効力発生の時期に到達主義の原則を示している。また、米国の契約法研究書においても、テレックス、ファクシミリ、電子メール等の双方的な即時的通信手段による承諾の効力発生について、理論的に、メールボックス・ルールは適用されず、対話者間の原則に基づいて、承諾のメッセージが受信された時および場所で効力が生ずるのであり、したがって、その時およびその場所が契約成立の時および場所であると説明している。
けれども、米国の最近の判例の中には、電話、テレックスによって締結された契約は、申込の承諾が申込者に到達した時および場所ではなく、これが被申込者によって発信された時および場所において成立したとみなし、発信主義をとるものがみられる。これらの判例においては、伝統的なコモンローの原則に従って、当事者が明示的または黙示的に通信手段を指定した場合は、承諾はこの通信経路(communication channel)に入った時および場所で効力が発生するというメイルボックス・ルールが根強く支持されている。したがって、米国においては、テレックス、ファクシミリ、電子メール等の即時的通信手段による承諾の効力発生に到達主義が適用されるか否かに関する問題はまだ解決されていないようである。

 

 

 

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